わたし達の要望
 平成15年5月19日(月) に下記報道(注1)がなされ、その後同年7月10日(木)に成立しました。
しかしながらこの法律の、(3)現に子がいないことと言う要件は過去を問題とする要件であり、本人や家族の努力で如何ともしがたいものでもあり、家族を持つ当事者であるわたし達にとってはとても耐え難いものです。
 また、(2)現に婚姻をしていないことと言う要件も当事者と辛苦を共にしてきた大切な配偶者との関係を引き裂かれることとなり、幸せな家庭を崩壊させる辛い結果をもたらすものです。

(3)現に子がいないこと」と、(2)現に婚姻をしていないことの要件についての

心からのお願いを聞いて下さい。

わたし達「家族と共に生きるGIDの会」は、性同一性障害を抱える者とその家族、支援者からなる組織です。
このたび、あえてこのようなお願いを致しますのは、子を持つ当事者と子ども、既に婚姻している当事者とその配偶者の立場についてのご配慮をお願いするためです。

子を持つ当事者とその家族は、社会の現実を考えると、表立って権利を主張する行動を起こしにくい立場にあります。このため、正確な数は分かりませんが、医療の空白期間を考えると、潜在的に治療や社会的改善を望む当事者とそのご家族は相当数存在するものと思われます。医療が性同一性障害をサポートする様になって以降も実際に多くの家庭を持つ当事者が、ガイドラインに沿った治療を求めて医療機関にかかっています。

こうした当事者は、障害であるということも知らず、自分自身のなかにある違和感が何であるかも分からずに、結婚し子供をもうけ一生懸命生きてきました。

こうした違和感がなぜあるのか理解できずに、社会に適応しようとするあまり、精神を病む寸前だったり、そのことにより家庭が荒んでしまったこともあります。

しかし実際、自分に違和感を覚えながらも配偶者と共に手をたずさえて一生懸命に生きながら子供達を育て、その子達を立派に成人させ、次の納税者、次の有権者を懸命に育ててきたかたもたくさんおられます。

こうした人達は、自分の中の混乱を抑え懸命に家庭、社会、国家に貢献しようと努力してきました。
社会に適応しようと一生懸命に生きてきた当事者と家族に、どんな「非」があるのでしょうか。

この法律によると残念ながら、社会の要請に応えて懸命に生きている当事者とその家族の人生を一生否定され続けることとなってしまいます。
当事者に子どもがあったり婚姻していると家庭裁判所に申し立てることすら許さないとされたこの法律は当事者の家庭を一刀両断に引き裂いてしまう誠に厳しくて冷淡なものではないでしょうか。

日本で性同一性障害の診断や治療が公にできる様になったのは平成9年のことで、海外先進諸国に遅れること数十年の時を経てやっと社会に認知されはじめたのです。
日本には性同一性障害という言葉すら存在しなかった世代の当事者とご家族がたくさんみえます。

愛する人と結婚した、愛する子供を持ったという過去は変えることはできません。
そしてまたその過去も自分自身の一部なのですから、その過去の人生を社会に認めて欲しい、現在そして将来の人生と家庭の幸せも社会に認めてもらいたいと願っています。

わたし達は、自分に子供がいることを誇りに思います、そして家族や社会と共に生きる幸せを望みます。
わたし達に生きる希望を与えてくれた、かけがえのない家族であり子供達だからです。

わたし達はこの法律によって、子を持つ当事者とその子ども、配偶者のある当事者とその配偶者の生き方を否定されてしまいました。これからはなにとぞ寛容にわたし達の生きてきた道もお認め頂けることを心からお願い致します。

わたし達は、この法について以下のように改善して頂けることをお願いするものです。

この法律では子どものある当事者や配偶者のある当事者は審判も受けられません。
単に申立ての権利を奪ったところで未認知の子がいる場合があり得る以上問題の解決にならないのではないでしょうか。
なぜなら、当事者に子どもが誕生しても我が子を認知できないという、極めて子どもの福祉に反する事態を招き、更には我が子を排除してしまおうとする、悲しい結果を招く恐れも生じてきます。

これでは、子供の福祉を考えたという法律には、ほど遠い結果となってしまいます。

裁判所に申立てる権利は全ての国民に平等に与えられた大切な権利ではないでしょうか。
性同一性障害を抱えているにも関わらず、子どものある当事者、配偶者のある当事者は申立てすらできないとされたこの法律を私達はとても残念に思います。

  • 現に子がいないことを要件としないこと。
  • 現に婚姻をしていないことを要件としないこと。

わたし達の切なる願いを実現して頂きますよう、宜しくお願い申し上げます
以上。

平成16年2月8日
家族と共に生きるGIDの会 (TransFamilyNet)
事務局長
鳴島 優理

(注1)2003年05月19日(月) 与党が性同一性障害で法案
 与党3党の議員らで作る「性同一性障害に関するプロジェクトチーム」は19日、初会合を開き、民法など法令上の性別変更を可能にする「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律案」の骨子をまとめた。本人が(1)20歳以上(2)非婚(3)子供がいない(4)生殖が不能―などの場合、家庭裁判所に審判を請求すれば、民法やその他の法令を適用する際の性別を変更できるとした。
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